山内さんが条件として提示したのは、こういうことだった。彼の経験から、婦人科の入院病棟で誰かのカットやメイクをしたら、わたしも、わたしも、となってみんなが押し寄せてきて、実際、彼の目から見て、困ってるんだろうなあと思える患者さんばかりで、断りにくくなってしまうのだそうだ。やはりそこは女性が集まっているので切実な願いなのかもしれない。そこで、今回は初めから里香さんオンリーで、他の患者さんの臨時オーダーはできません、ということを確定しておいて欲しい、とのことだった。翌日、ナースステイションで、まず、里香のカットを病院内でしていいのかどうか、そして、他の患者さんはできないということをどうやって伝えたらいいのかを聞いてみた。随分わがままな話だと思うが、いつもの看護師さん三人は意外にあっさりと、
「それなら、ここの奥でやればいいんじゃない?」
「そうねえ。ここでいいんじゃない」
とナースステイションの奥のスペースを使わせてくれることを提案してくれた。確かに、病室からはカットしていることはわからないし、だったら、わざわざ断りの方法を考える必要もなかった。長い間、入院しているので、なんだか牢名主のように、特別扱いになっている雰囲気だ。そういえば、ベッドの向きが僕のマレーシア行きの前と変わっていた。これも里香が自分の好きな向きに変えてもらうように頼んだらしい。元々、交渉能力は高い人で、自他ともに認めるお人好しの僕なんかから見ると、人使いが荒いというか、女王様みたいなところがあった。練馬の借家から、今の実家に移る時もこんなことがあった。台所の換気扇まわりのクリーニングを不動産屋さんがプロにオーダーするからその料金をいくばくか負担して欲しいといってきた。それを里香は自分でやるといい出した。この家のトイレの床を自分一人でフローリングにした実績のある里香だけに、また自力でやるのかと思ったが、不動産屋さんは
「いえいえ。素人の方がやったんじゃ、どんなにきれいにしたってわれわれから見ればダメなんですよ」
という。そこで里香は一度自分でやってみて、結果を見て判断して欲しい、と掛け合って来た。そして、自分でやるのではなく、当時まだ普及していなかった蒸気を噴射して油汚れを画期的に落とすというクリーナーのセールスマンを我が家に連れて来て、1000円でお試しクリーニングという企画を利用して、換気扇周りを完璧にきれいにさせた。本当はコンロ周りのみの企画なのに、セールスマンに口八丁言って換気扇までやらせたのである。僕もそれを見ていたが、別に色仕掛けでもなんでもなく、うまく口車に乗せて
「わかりました、わかりました。やります、やりますよ。はいはい」
と言わせてしまう技には感心するばかりであった。しかもやらせておいて商品を買う気なんて、はなからさらさらないのだ。そして次の日、検分に来た不動産屋さんから
「うん。確かにこれはきれいだわ。わかりました。クリーニング代はご負担無しで」
という言質を引き出した。僕の方をどや顔で見た里香は、それだけに停まらず、不動産屋さんの負担分からいくらかを引き出そうと交渉し始めた。これには僕が遠慮してストップをかけたが、不動産屋さんが引き上げてから
「あなた。バカね」
と斜め上から侮蔑したような目で僕を見ながら言った。
「せめてバカ正直といってくれ」
「まあ、いいわ。でも私に感謝しなさい。少しでも出費を抑えたんだから」
「はい。感謝します」
こんな調子で、僕をびっくりさせた別の一件もある。長年つとめたイギリスの証券会社のバイトを辞める時、退職金を会社との交渉で引き出したのである。僕の感覚では単なるバイトに退職金なんて聞いたことがないが、それだけ職場で役に立っていたのか、得意の口八丁が功を奏したのか、なんと僕の年収に匹敵する額を出させたのには驚いた。例の成田~ロンドンの往復ペアチケットをクイズ大会でゲットしたあの会社だが、随分と気前がいいもんである。話は前後するが、しかもこのチケット、ヴァージン・エアラインのアッパークラスだった。他の航空会社のファーストクラスはおろかビジネスクラスだって僕らには縁がないと思っていたのに、世間で評判のヴァージンのアッパーである。行きの機内では、僕らのすぐ前の席にCAやパーツァーがいちいちひざまづいて挨拶する人がいて、一体どんな貴人かと思ってトイレに行くときに会釈をしながら見てみたら、立派なカイザー髭を蓄えた、きっと貴族階級の人なんだろうなとわかるジェントルマンだった。そんな席にバックパッカーの日本人夫婦が乗ってきたのである。僕なんて思いっきり地に足が付かない心持ちだったが、さすが里香は堂々としていて、ゴージャスな喫煙コーナーで悠々とタバコを吸ったり、自分の座席シートをゆったり寝かせて高級ワインをくゆらせたり、上流階級ごっこを存分に楽しんでいた。
 ついでに家の営繕関係での交渉上手について、もう一つ言っておくと、今の実家のお風呂の床下が修理の必要があるんじゃないか検査しますよ、とある建築屋さんが訪問セールスで言ってきた時に、本当に必要があるのかないのか、自分の目でも確かめたい、と里香が言い出した。床下に入るのは大変だから、写真を撮ってきます、という建築屋さんに
「今すぐ着替えますから」
といって、ジャージ姿にタオルで髪を被った奥田民生みたいな格好で現れ、
「一緒に連れてってくださ~い」
と彼の後ろに早々とくっついた。
「いいんですか、本当に。じゃ、いきますよ」
と驚き半分、笑い顔半分の彼と一緒に床下に潜っていった。素人同伴なので声を掛け合いながら、土にまみれつつ匍匐前進でお風呂の下まで行って、あれこれ説明を受けて20分ほどで戻ってきた。蜘蛛の巣やら泥やらを払いながら
「あれは早く修理しなきゃ危ないわ。こちらにお願いしましょう」
といった。建築屋さんも
「ありがとうございます。いや~床下までついて来られた奥様は初めてです」
と、なんだかうれしそうだった。
そこからの交渉を見ていたが、建築屋さんが一緒についてきた里香に感心してしまって、彼女のペースに嵌っている感じがありありとわかった。実際に見ているので、必要という程ではないけど安心のためにここも、という類いの彼にとってはくっつけたいオプションも一切なし。逆に工賃の値下げサービスをうんと言わされつつも、参ったなあという笑顔だった彼の表情が印象に残った。

 さて、ナースステイションから許可が出たので、数日後、山内さんが道具箱を持って病院にやってきた。彼はお店付きの美容師ではなく、今やモデルさんのスタジオ撮影やファッションショーの現場で腕を振るうメイクアップ・アーティストなので、このスタイルの方が様になっている。実はここ一年ほど、里香が何かにカッとなって、彼とは会わない日が続き、そのまま倒れたので今日が久しぶりの再会であったが、里香はそんなことは忘れているようだった。彼の方も全く何も気にせずにいつも通りのクールな対応をしてくれた。大きな鏡があるわけでもなく、本来、髪を切るスペースでは全くない場所だったが、さすがはプロである。どれくらい切りたいのか大体のイメージを聞いて、あっという間に仕上げてしまった。引き上げようとする彼と廊下を歩きながら少し話したところ、
「メイクまではできないけど、カットだけでもまあまあいいでしょ。今日は僕からのお見舞いだということで、お金はいらないよ」
といってくれた。
「ありがとう。お言葉に甘えるよ。また退院したら、通うから俺共々、よろしくね」
そして別れしなに彼はこう言った。
「里香さん、なんかつきものが落ちたみたいな感じだな。内面的によくなったみたい。痩せたのなんの関係なく、今までで一番きれいだよ」
「本人に言っとくよ。きっとよろこぶ」
「じゃ」
彼はお世辞なんて言わない人だ。その彼の意見だけに里香もうれしいだろう。ナースステイションに戻ったら、里香が椅子に座ったまま、手鏡で自分をいろんな角度から見ていた。何も言わず、ただ、少し笑みを携えて鏡の自分を見ていた。山内さんの言った通り、すごくきれいだった。ようやく僕の方を見て黙って微笑みかけた。何も言わないが「どう?」と聞いている。山内さんと同じ台詞で
「今までで一番きれいだよ」
といったら、比喩でなく本当に里香の笑顔からキラっと光がしずくのように輝きこぼれた。


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2017.04.08 Glory 15
 手術は、事前の予想通り長時間を要した。しかし、長丁場となる覚悟を決めた六時間を過ぎた辺りで、終了となった。うまくいったのか、それとも何か問題があったのか、不安で一杯の気持ちを振り絞って先生からの報告を待った。報告に来てくださったのは、執刀医ではなく、主治医の女性医師だった。先生の表情から、あまりいい結果は得られなかったように感じた。お話では、開腹し、血栓による肺不全を引き起こした原因の追及と元々抱えていた最重度の子宮内膜症の外科的治療を試みたところ、あまりに臓器間の癒着が進んでおり、困難を極めた、という。結論からいうと左の卵巣を摘出したのみで、それ以外はどうにもならなかったそうだ。血栓ができた原因と過程はいくつか考えられるが、大静脈に装備した特殊弁と今後の薬品投与で以後は大事には至らないだろうという。今後は術後の回復を待って、別の治療法を考えていく必要がある、との話だった。抜本的な進展を期待したが、かなわなかった、というのが正直な感想だ。ただ、今回も全力で手術にあたってくださった先生方への感謝は変わらなかった。里香の全身麻酔がさめて意識を回復して話が出来るのは明日になるだろう。術前に覚悟を決めて、その変わりに生理痛や排卵痛から開放されて、楽チンに暮らせると期待していただろうに、それを思うと気が重い。

 翌朝、おかあさんも一緒に病室にいって、その話をしたところ、
「ええっ? ブ~~~~~・・・」
とほっぺたをふくらませた。何も言ってやれないで、もじもじしていると
「いつからご飯食べられるの?」
と聞いてきた。気持ちを切り替えようとしているのか。決して表情は明るくないが、話題を前向きに換えてきた。強い女だなあ。なんとか励ましてやりたいと思うが、何も言えず、逆に僕の方が里香の強さに救われているようだ。里香は若い頃から、僕と口論になったときなど、自分の感情や二人の間の雰囲気をサッと変えて、違う話題にしてしまう事がよくあった。その展開の速さについていけず、イライラしたまんまの自分を悔しく感じたものだったが、「気分を変える」ということには女性の方が長けているのかも知れない。とにかく、最善を尽くしてもらった手術の結果なので、受け入れて前に進んでいくしかないのだった。まずは切ったお腹の傷がふさがって、抜糸できてから、改めて今後を考える。今あれこれマイナスの思考をしてもしょうがない。
 そのお腹の切開跡だが、以前の手術のものとは次元が違っていた。以前のは横に十数㎝で、例えばビキニタイプの水着になっても隠れるくらいの跡だったが、今回のは容赦なく縦に下腹部から胸まであった。女性なので見た目も考慮して、といった感覚は全くなかった。僕は里香がどんな姿になっても気にしないが、本人がショックを受けるのでは、と心配だった。しかし、それは杞憂だったようで、自分のおなかを見てもあっけらかんとしたものだった。意識が戻ってからの里香は、いろんな面で、僕とドングリの背比べみたいだったところを越えて、強く、優しく、そして純真になっているように思う。僕が置いていかれたような感覚はないが、正直なところ、ちょっと感心してしまう。

 術後の回復が進み、食事も元に戻った2月の中頃、僕とリョウさんに海外公演の仕事がやって来た。実は里香が倒れる前から計画されていたツアーで、里香も喜んでいた話なのだが、予定通りに遂行されることになったのだった。マレーシアのクアラルンプールを中心に、そこからいくつかの場所でライブをやり、地元のアジアでも有名なバンドとコラボしたり、一緒に録音したりすることになっていて、自分としては全力でぶつかりたい仕事だった。また、作曲も編曲も進まない中、演奏で何かきっかけをつかみたい、という気持ちも強くあった。僕が里香から離れても、おかあさんがいるし、現状、問題ないだろうということで、いかせてもらうことにした。1週間ほど、日本を離れることになるが、里香は、僕が音楽の仕事でステップアップすることを大変喜んでくれた。彼女にとっても何か前向きな、いい話は久しぶりなのだった。いよいよ出発という日、成田に行く前に病室にいったら、
「がんばってね〜〜。ばんざ〜〜い。ばんざ〜〜〜い。ばんざ〜〜〜〜い!」
と、ベッドの上で、また万歳三唱を一人でやってくれた。なんだか愛おしくなって、何かを置いていきたい気分になった。司馬遼太郎の小説「竜馬がいく」の中で、新婚のおりょうさんとしばしの別れの時、竜馬が自分の着ていた紋付の袖をビリビリと破いて彼女に渡したシーンを思い出し、着ていたダウンジャケットのフードを外して、里香に渡した。「竜馬がゆく」の大ファンである里香も、僕の意図が分かったようで、うれしそうに受け取り、フードに頬をくっつけて
「あ、じゅんちゃんのにおいがする」
といった。
「これで俺を思い出して、待ってろよ。頑張ってくるからな」
そういって、立ち去ろうとしたとき
「じゅんちゃんのにおい・・・ほーむれすのにおい・・・」
といい出した。せっかくいいシーンだと思ったのに何事だ。
「うるさい!俺はそんな臭くないぞ!何いい出すんだ!」
「くさいわよ!あなただいたいすべてがるんぺんっぽいのよ。むかしからほーむれすみたいだとおもってたわよ!」
「ふざけんな!俺はルンペンじゃないぞ!」
「るんぺんじゃないけど、るんぺんくさいわよ」
「俺は毎日、風呂入ってるだろうが!なんでそれがルンペン臭いんだ!」
「そんなのしらないわよ。ちゃんとあらってないんじゃないの?」
「洗ってるよ!」
大きな声で言い合ったので、ナースステイションから安田さんが飛んで来た。話の内容がこれなので、笑っている。
「里香さんも純さんも、お静かにね。そこらじゅうに聞こえまくってますよ」
「ああ、すみません」
恥ずかしい気分に襲われたが、時間も押し迫っていたので、そろそろ行かなければならない。里香を見ると、フードをかぶってあっかんべえ〜をしている。鼻くそをほじって指で里香の方に飛ばす真似をしたら、手の甲ではじき返す振りをした。
「もういくぞ。じゃあな」
といって退室しようとしたら、背中に向かって
「がんばってね。まいにちちゃんとあらってね」
といった。まあいいか。元気になってきた証拠だ。

 リョウさんと至と三人でツアーするのは何回目かだったが、海外は初めてだった。僕は旅慣れず(何事にも慣れないが)頼りない存在だが、至がすべて仕切ってくれるので安心だった。お蔭で音楽に集中できるし、外国の風土や人や音楽を見聞し、自分が大きくなれそうな気がした。実際、このツアーの収穫は大きかった。特にコラボしたマレーシアを中心にアジアの広い地域で活躍するバンドとの出会いは素晴らしかった。音楽に対する彼らの姿勢や発想に刺激されること、誠に大であった。日本では、僕らは歌がないインスト・バンドなので集客がいつも課題だったが、海外ではこれが逆に武器になった。日本独自の民族楽器である尺八がメロディーをとっている点も有利に働いたと思う。改めて自分の楽器に大きな可能性を見い出せたし、自信という大きな土産を持って日本に帰れると思った。面白かったのは、至が現地の女性に異様にモテたことだった。彼は長身でスマート、ルックスもいいのだが、ちょっと日本人としては濃い顔の部類だ。これがアセアンの女性には受けがよかったようで
「日本人にはハンサムな人はいないのかと思っていました」
などとおっしゃる女性もいて、僕らメンバーそっちのけで、至にサインを求める女性達が列をなしていた。これには至も
「人生初です。いや、いいっすね〜。来年も来たいですね〜」
と濃い眉を下げていた。

 あっという間の夢のような一週間が過ぎ、帰国した日に成田から病室に直行した。ベッドで起きていた里香は両手をこちらに伸ばして
「わあ〜〜、じゅんちゃん。おかえり〜〜!」
とうれしそうに歓迎してくれた。ルンペン臭いと文句を言ったフードが枕元にあった。充実した旅だったので、話したいことが山ほどあった。里香も目を輝かせて聞いてくれた。午後からおかあさんも見舞いにやってきて、一緒に僕の話を聞いてくれた。
「純ちゃん、よかったじゃない。あなたが音楽で活躍することが里香にとっても励みになるんですからね」
「はい。そのつもりで頑張りました。作曲や編曲が滞ってて、どうしたらいいのか困ってたけど、少し自信が湧いてきました」
 長い僕の話が一段落した頃、もう日が落ちていて里香の夕食を谷さんが持って来てくれた。谷さんの説明では術後の経過もいいようだった。数日後には、またリハビリセンターに通って歩行訓練を始める予定だという。声の方はもうほとんど元通りの声量になっていた。病気の根本的な部分は進展していないが、元気にはなっている。歩けるめどが付いたら、退院して、自宅からの通院でやっていくことになるはずだ。考えてみれば、心肺停止の命の際から、退院の話が出るまでになったんだなあ、と改めて感謝の気持ちで一杯になった。 

 その帰り道、おかあさんと同じことに気が付いたのだが、それは里香の髪のことだった。これまで、それどころではなかったので、忘れていたが彼女が倒れてからもう3ヶ月近くが過ぎていた。徐々に体重も元に戻りつつあるが、髪はその間伸び放題だったのだ。知り合ってから十八年、いろいろな髪型を見て来たが、なんにもしないで三月も放ったらかしは初めてだ。特におしゃれな女を自認する里香が、まったくなんにもしないで来たことなんてない。今はメイクはもちろん、服装も入院服のみで、おしゃれのことなんて頭にない生活だったが、さすがにちょっと伸びたなあ〜、という印象が今日初めてした。リハビリは始まるが、その他に何か本人に前向きになれる話題があってもいいかな、とも思う。そこでおかあさんと、山内さんに相談したら、という話になった。彼は元々、里香が独身時代からご贔屓にしていた美容師さんで、僕らの結婚式のときに里香のヘア・メイクでお世話になり、それ以来、僕も毎回カットをお願いして来た人物だ。実は彼はバイク乗りで、しかも殆どの整備を自分でやってしまう人で、持っているバイクもBMWなど僕から見ると羨望の名車を揃えていた。さらに川釣り師でもあり、これまたものすごいエキスパートで、僕とは話題がかぶり過ぎていた。そんな訳で里香とのつながりだけではなく、彼が自分の会社とブランドを立ち上げて活躍し始めてから、音楽の面でお手伝いをさせていただいたりしていた。彼に電話して、入院中の里香のカットを申し入れたところ
「ああ、いいよ。いいけど、ひとつ条件があるなあ」
といつものクールな調子で言った。


 
来る5月5日(祝)に浅草の本覚寺で、和太鼓奏者の花木久実さんと我がP.W.R.のジョイントライブが開催されます。
お寺での演奏はP.W.R.にとって初めての経験です。
みなさま、こぞってご来場を!! お待ちしてます!

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みなさま、お待たせをいたしました!
3月19日(日) 下北沢「 Lown 」にてPure Well Right のライブを開催する運びとなりました。
新ネタを用意してお待ちいたしております。奮ってのご来場を心よりお待ちいたしております。

みなさま、よろしく!!

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今年もよろしくどす。

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2016.12.20 Glory 14
   婦人科に来て早々から、体力の回復を待って、開腹手術をして、いろんな不明点を解明し、また、場合によって、悪いところは取ってしまうなどの抜本的な治療を行う、という予定はきいていた。今回のことが起きるまで、「取ってしまう」ということについて出来る限り話題に触れないできたところが僕ら夫婦間にあった。散々苦しい目にあってきたので、楽をさせてもらいたい、させてあげたい、という気持ちと、もう子供は諦めるということをはっきりと口にするのをためらう気持ちとが綯い交ぜになってあり、いつかは決断しなきゃ、と思いつつも積極的に器官の摘出を考えることはできずにきた。しかし今は、里香の命と引き換えのように子供をつくる可能性を失ったとしても、僕としてはいいと思っている。いや、とっくにそう思ってはいたが、言い出すのをためらっていた、といった方が正しいかもしれない。今回、倒れたのが検査入院中の院内だったから命をとりとめることができたが、もし、一人で自宅だったら、と思うとこわくなる。里香の命が何ものにも換えられないのだ、ということを心に沁みてわかった。ただ、まだどうなるのかわからないものの、まだ出産をしていない女性にとって、もし子宮、卵巣の全摘出ということになれば、それがどれほど重いものなのか、男の僕には想像を超えるものがあった。それでも避けて通れない話なので病室に僕らしかいないとき、里香に聴いてみたら、

「もうぜんぶこちらにおまかせする。もうしんしんともにつかれた」

と淡々とした口調で言った。そうだよな。本当にそうだよな。もっと早くに決断できていれば、ひょっとしてこんな大変なことにならなかったのかもしれない。ごめんよ。でも僕にはわからなかった。こんな事が起きるなんて想像もできなかったんや。でもな、これからは、悪いところを全部とって、元気になったら里香のこともっともっと大事にするから、二人で一緒に仲良く生きていこう。毎月の苦しみも忘れて、楽しいことをいっぱいしよう。苦手だった旅だってしよう。里香の好きなことにもっと付き合うようにする。頭の中でそんなことをいいながら、何も言葉を出せずにいた僕の手をにぎって

「・・・じゅん。いいのよ、なにもいわなくて。しってるよ、じゅんのいいたいこと。わたし、しあわせよ。じゅんといっしょで」

といった。だまって頷いたら、下を向いたいきおいで涙があふれた。

 手術の責任者という男性の先生がこられたのはその翌朝だった。とても頼りになりそうな立派な方だった。このときも桜井さんが付き添っていたが、さすがに先生の後ろに神妙な面持ちで控えていた。重い話、固い話などたくさんあったが、これらは後で本人と僕の署名をすることになっている。いよいよの覚悟を決めたら、男より女性の方が肝が据わっているのだろうか。里香は素直に

「はい。・・・はい。・・・」

と肯定の返事をくりかえしていた。結構長い説明が続いたので、ひょっとして事態の重さをわかっていないのかな?と少し心配になったが、昨日のことを思い出してそうではないことを祈った。話題がいよいよ手術に備えての準備の話に移ったとき、

「・・・という訳で、手術の前日に剃毛します。・・・」

というところで、

「・・・はい。・・・えっ?」

と表情が急変した。

「ああ、剃毛というのはですね。毛を剃ります」

「・・・ええっ? け って・・・」

「下腹部の毛を剃ります」

「ええ~~?! なんでですか?」

「いや、開腹しますから、いろいろ雑菌が入っては困るので、手術の場合は剃らなければいけないんです」

「ええ~~~?!」

桜井さんも見かねて

「里香さん、だれでもみんな手術のときは剃るんですよ」

と言い聞かせるようにいった。

「ええ~~~~、そんなあ~~~・・・」

「いや、これは必要な処置なので・・・」

「でも・・・だってえ~、すきなのに~~~!」

これには先生も桜井さんも吹き出した。里香が自分のアンダーヘアーの具合を気に入っていることを僕は知っている。しかしこんなときにそれをいうか? 先生は軽く衝撃を受けたようで笑いをこらえながら言った。

「しかし・・あの・・っほっほっほ・・また・・また・・は、生えてきますから、あ~っはっはっは~~!」

とうとう声を上げて笑い出した。桜井さんもファイルを持っていない方の手で口をふさいで震えていた。

 

 先生が引き上げられてから、桜井さんが戻ってきた。

「里香さん、もう。笑わせるのやめてよ~」

「おまえ、なにを言い出すんや」

「だって、そっちゃったら、またはえてきても、おんなじかんじにならないかもしれないじゃない」

「そんなこと大した話じゃないやろ!」

といいながら、アニメ映画の「もののけ姫」のラストで鬱蒼とした神秘の森が焼き払われた後に、新しい緑が茂り始めるシーンを思い出してしまった。

「わたし、きっとへろへろになっちゃうわ」

「でも先生があんなに笑ってるの、始めて見ました」

「わたしのしゅじゅつちゅうにおもいだしてしゅじゅつできなくなっちゃうかなあ」

「そんなことはないやろ。こんな大きな病院のえらい先生なんだから、最高の技術でやってくれはると思うよ」

といいながら、あの笑い方を思い出して、ほんの少しだけ不安がよぎってしまった。

 手術の前日、病室にいったら桜井さんがいた。里香はベッドに仰向けに寝て、なにやら不思議なくねくねした動きをしていた。手を横に伸ばし気味で胴体を左右にゆすっている。ニヤニヤした表情で僕を見ながら動き続けるので

「おまえ、何やっとるんだ?」

といったら、桜井さんがニコニコしながら

「里香さん、へろへろなのよね~。剃られちゃったから」
と説明した。本人は動いたまま

「もうへろへろよ~。へろへろ~~」
とうかれている。
脱力感満載のへろへろダンスを見て、深刻な手術を受けるというのに、こいつときたら幸せなやつだ、と思った。しかし、こちらはそれで気分的に大いに救われてもいる。本人がこの感じなので、暗くならずにすんでいる。どうも周囲を明るくしようとして、努めてやっているのではなく、ナチュラルにこうなってしまっている感じだ。そうでないとこの可笑し気な感じは出ない。元々面白い女であったが、生き返ってきたら輪をかけて面白い奴になっていた。そう思う。

 手術はどれくらい時間がかかるのかわからないので、僕もおかあさんも一緒に一日予定を空けて病院に待機することになった。いよいよ手術の朝、おかあさんと病室にいくと、大きな手術の前だからだと思うが、看護師さんが三人揃って里香の周りにいてくださった。なんやかやと慌ただしい雰囲気もある。本人はいつもと同じで特に緊張した感じはない。病室に入る前にチラッと確認したのだが、おどり場からはお正月の日と同じように素晴らしい富士山が見えていた。そこで思い切って安田さんに

「あの、景気付けに富士山を見せてやってもいいですか?」

と聞いたら、

「ああ、それはいいかも」

といって、里香を車いすに乗せてくださった。

「里香さん。純さんが元気出るようにって」

「ええ~?なになに?」

そんな会話をしながら、おかあさんも一緒に、おどり場まで出たら

「ワ~~~~~~~イ!!ふ~じ~さ~~~~~ん。やった~~~! ばんざあ~~~~~い!ばんざあ~~~~い!ばんざあ~~~~~~い!」

とみんなで一緒に万歳三唱をしてしまった。おかあさんまで笑いながら万歳三唱をしていたのが可笑しかったが、本人のテンションがいかに高まったかよくわかった。その勢いのまま、ステレッチャーに乗って

「いってきま~~す!」

と元気に出て行った。里香が行った後も周囲に笑いが残っていたが

「あの子ったら・・・」

と笑い顔にあきれ顔の混じるおかあさんに

「でもね、おかあさん。あいつ・・・笑顔でいきやがった」

と言ったら、涙が込み上げてきた。

 そして泣いても笑っても、里香にとって2回目となる大手術は始まった。