FC2ブログ

 うちのバンド「Pure Well Right 」の新アルバムを出そうという話は去年、前作ができたときからあった。

秋のツアーに向けて夏の間に作ってしまおう、という事で意見が一致。そして前作のミニアルバムに収録された4曲を含め、新たに何曲か加えてフルアルバムにするという点でも話がまとまった。

 

 これを受けて、まずYoshiさんがギターの録りを始めた。それをMasaのところで音楽制作ソフトに取り込んでいく。いつもながら多量のデータだがこれらをまとめて、曲の骨組みを一つ一つ作る。つまり伴奏のパートを作る訳だが、勿論Masaが伴奏を弾くところは彼が自分で録っていく。ここまでの作業でも大変な労力で、二人に感謝なのだが、僕もその間、自分なりにやらなければいかんことがある。

 今回は「ライブの勢いやノリをできるだけスタジオ録音に活かす」というコンセプトだったので、録音中にチューニングメーターで音程を確認しながら吹くことをやめようと考えていた。メーターを見ながらでもライブ感を出せるようにするのか、メーターを見なくてもピッチを保てるようにするのか、どちらも大事だが、今回は熟考した結果、後者を選ぶことにした。どうしても視覚で何かを確認していると安全運転的な演奏になってしまう(僕の場合)。普段から録音クオリティーで吹いてろよ、という話だが、この点は反省。

 という訳で、毎日チューナーを見ながらロングトーンを吹き、曲の練習もピッチがずれやすいところをチューナーで探って覚えていった。耳を鍛えることと、パッションを吹き込むことが相反しない、この音楽のド基礎に立ち返って特訓した。

 そしてもうひとつ。Masaの曲はシンプルに聴こえるものでも実はかなり難しいのであるが、今回もハードなのがある。特にアドリブ部分は勢いで吹いてしまうとバックの和音の変化に合致しない恐れがあり、要注意。録音はずっと残るものなので、変な音は出せない。かといって即興の勢いは必要。これも事前の練習あるのみ。

 家で練習できないときは、公園やどこか広いところで吹いた。管楽器の練習にほどよい感じのガード下があり、2年前までここに住み着いていたホームレスのおじさんが今年は見当たらなかった。真夏の灼熱の日差しを避けて彼と僕で日陰を取り合っていた仲(?)なのに。僕の武器はうるさい(彼にとって)尺八の音であり、彼の武器は野良暮らしで鍛えた強力な匂いであった。競争相手がいないのはありがたいが、寂しい気もする。

 彼はどこかで生きてるんだろうか?まあ、僕だって人を心配できるような身分ではないが。



 そして8月初旬、Masaから連絡があり、尺八の録りを始めることになった。時間が限られているから、納得できるまで何テイクも延々録り続けるなんてできない。できるだけ少ない回数でズバっと決めたい。満を持して、といいたいところだが、正直あっという間に録りを迎えてしまった。

 もっと練習したかったが現状でベストをつくすしかない。これはYoshiさんもMasaも同じだろう。常に現状よりも上の音をイメージできないとミュージシャンとしては終わりだ。だとするといつまで経ってもベストの録音なんていってもキリがない。時間その他の制約があるからこそ、録音という作業ができるのだ。

 いよいよMasaの楽器と機材で満杯の仕事部屋に入った。ここは本当に普通の楽器屋さんくらいに楽器と音響機材で溢れかえっている。10を悠に越えるギター達と何枚のシンバルがあるのか、まるでシンバルの試打室みたいなドラムセット、何台かのPCに、ミキサーもいくつか稼働している。音響機材も数知れずだ。


Masaのギター達 

今回使われたギター達。


自慢のシンバル群 

龍のうろこみたい。これらも大活躍! (写真提供:Masa)



愛用の自前チューナーはうちに置いてきた。いざという時の備えで持って来るのが常識だが、敢えて退路を断つ気持ちを優先。ここで用意された席に陣取って、尺八を録るのだが、モニターで聴いたYoshiさんの音がすばらしい。去年の録りのときも感じたが、それにも増して音の充実感がある。そしてテンポの速い曲は、ライブ並みの疾走感を持って、という約束がビシっと音に現れている。「こりゃ負けてられんぞ」と気合いが入るが、勢い込んでピッチを忘れないように、と自分にいいきかせて録りに入った。

 1曲目は一番やりやすいのを選んで吹かせてもらったので、すんなりOK。2曲目におそらく手こずるであろう難曲をもってきた。疲れないうちに勝負をかけたい気持ちもあり、時間の制約がかかる前にやっておきたくもあった。Masaが作ったギターのパートは流石のクオリティーで聴いていても自然にのめりこめる。肩の力をぬいて、一気にギターの音の中に自分を投げ出した。結果は

「いままでで一番いいソロですよ。これ、活かしましょう!」

とMasa。いや、うれしかったです。うまく難所を越えたので、この勢いで録音を進めていった。結局、時間一杯を使って、最低限の予定曲数は録り終えることができた。まだ、Yoshiさんからあがってきていない曲もあり、予備として空けていた次週に残りを録ることになった。



 初日終了の感想だが、「これはすごいアルバムになる」という予感がリアルにあった。次回の尺八録りまで、一週間あるが、その間もギターの二人は休む間もなく録り続け、また調整し続ける。僕も練習と秋からのツアーの準備に精を出す。朝から深夜まで、チェック用に上がって来る音源を聴いて意見を交換したり、修正したりという作業が連日連夜続く。日本一のスコアアナライザーでもあるYoshiさんと耳のいいMasaは実に細かいところまで的確にチェックしていくが、僕はなかなかそうはいかない。いかないながらも何か気付くところがないか、何かアイデアが湧かないか、と思ってひたすら何回も聴きまくった。



 そして次の尺八収録の日、Masaから要請があって、前回の音に加えてさらに吹くことになった。ここで、曲をモニターしている中、Masaの曲の終わり方について、あるアイデアを出したところ、これが採用になった。僕も役に立ったことがうれしかったが、この仕上がりはちょっとすごいです。どうなったかはCDを聴いてのお楽しみ。

 この日はYoshiさんの大曲を録り終えないといけない。そして現場にYoshiさんからネットで尺八のハモリが追加で送られてきた。手書きの譜面を見て、ゲゲゲっと衝撃。尺八で出しにくい音がズラっと並んでる。楽器を変えたり、換え指を駆使したりなんとかしようと考えたが、どの手もどこかが難しくなる。というより、演奏不可に近い。これ今から録るの?まじかよ、と思いながらも「できませんでした」とは言いたくない。ちょっと練習時間をもらってやるだけやってみた。この他、まだ録り終えていない曲をなんとか時間までに終了。終わったときは頭がからっぽになった。



 またここから先週に輪をかけてチェックと修正の嵐であった。この大変な作業に加えて、Masaは自分のパートを6本のギターを使い分けて収録し、ドラムアレンジをしてこれを自分で叩いて収録し、パーカッションや鳴りものも何種類か録った。このうえに莫大な数の音データをミックスし、編集し、かつまたマスタリングまで一人でやるのだ。頭のいいやつだとは常々思っているが、こりゃ常人じゃ無理だ。集中力、体力も半端じゃない消耗を強いられる。一人じゃ限界があるから、できるだけ二人が音を聴いてチェックをしていくことで、彼をサポートする。

 そしてこの作業をさらに強化していく中、予定にはなかったが、さらにもう一度尺八を録ることになった。細かい部分だけだが、「美は細部に宿る」の格言通り、できる限りのことはやりたい。

 その収録の最中、ヘリコプターがしきりに低空で飛んで来た。隣国の情勢が関係あるのかと思ったが、Masaによると元々よく飛んで来るのだそうだ。防音がなされた部屋であってもヘリの飛ぶ爆音が入っちゃまずいので、その都度、遠くへいくまで待っての収録となった。

 ここで僕はある曲のある部分でヘリの音をまねた演奏したので、CDを買った人は探してみてください。ほんのちょこっとですが。



 余裕をもって立てた日程のはずだったが、結局、最後の最後までつめつめの作業で、本当にこれがラストチャンスというギリギリまでかかってようやく完成した!この間、三人とも体力と気力の限界に挑戦し、また大いに意見を交換し合い、そして同じ目標に向かって全力を尽くした。

 前作のミニアルバムから4曲を持ってきたが、すべて録り直しもしくはリミックス、リマスターで前と同じものはひとつもない。テンポアップしていたり、ソロが変わっていたり、なかった音が入っていたり、違いを楽しんでいただけるようにした。

 間際までMasaにマスタリングをがんばってもらい、我が家に集まって、プレス会社に入稿する最終の音チェックを三人で一緒にやって、ビールを飲みながら今後の作業について話し合った。ジャケットデザインや宣伝の方法、その他やることがまだまだ山積みで、それが終わったら即、ツアーの準備、そして怒濤のツアー&新アルバム発売を迎える。


 初日の予感通り、このアルバムはこれまでにない素晴らしいものになると思う。この確信をもって、小稿を終えたいと思う。


 

 僕らは今、このバンドに全力を注いでいます。ツアーに来てくださるみなさま。僕らの渾身のライブを、そして新アルバムをお楽しみに!







スポンサーサイト