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一昨年の夏、僕は愛車の緑馬(りゅうま、Kawasaki W650 2004年限定車)に乗って秋田の南部へ釣り旅に行った。そこで成瀬川の本流や支流の沢で楽しい数日間を過ごした。
翌年も当然、また行くつもりであったが、あの大震災が起きてしまった。報道によれば、僕が何回も往復したあの美しい国道も崩落し、入った温泉も支援物資が送れないほどの孤立状態という。
泊まっていた宿も電話がつながらず、お世話になった当地の方々のことが心配された。

今年はあきらめよう、と思っていたある日、ふと北海道にいってみたくなってしまった。
演奏で何回かいったことはあるが、大体そういうときは、宿とコンサート会場の往復しかなく、夜、当地の美味しいものをちょこっと味わえたら御の字という感じである。
そうではなく、バイク乗りの憧れの聖地、美しい大地を存分に走って、自分なりに北海道というものをもっと感じてみたくなったのだ。

そう思ったら、居ても立ってもいられない。奥の細道の初めの段の芭蕉みたいな気分になって、「いかない奴はバイク乗りの恥だ」くらいの勢いになってしまった。

早速、準備にとりかかった。まず、フェリーの予約である。
北海道は陸路が本州とつながっておらず、バイクでいくには、まあフェリーを利用するしかない。準備の頃、自由ヶ丘のダイニングバーでたまたま同席した年配のご夫婦がやはり同じ時期に北海道をBMWでタンデムツーリングされるという。バイクを空輸して、ご自身らは飛行機で現地入りし、同じ感じでもどってこられる予定とか。僕にはとてもできない方法だ。
一方、ボクシング仲間でもある友人の若手ベーシストは、SR400で、高速道路を使わず、下道をひた走って北海道ツーリングにいくという。これも今の僕にはアドベンチャー過ぎてできない方法だ。やはり僕は、熟年でもなく、若くもない、中年ライダーなのだ。
お気づきのように、バイクに乗る人はかくも多くが「夏の北海道」を目指すものなのだ。それでも夏の北海道が夏の湘南みたいに混み混み状態にならずにいられるのは、北海道が桁外れにでっかいということと、陸路が通じていないお陰なのだ。だから、フェリーの予約をめんどくさがってはいけない。

今回の旅は、屈斜路湖を目指すことにした。夏の屈斜路湖は水温が上がり過ぎて釣りにならないと聞いたが、川のドライフライは好調だ、との情報からそう決めたのである。
「道東」。フライフィッシングをやる者にとって、そこは聖地のような印象を与える。
バイクもフライフィッシングもやる僕には、W聖地という訳だ。(そんな言葉はないが)
ネットで探してみたが、もうすでに満席が多く、最初に考えた、秋田まで走ってフェリーで苫小牧東に上陸、そこから屈斜路湖まで走る、という計画は変更せざるを得なくなった。

結局、青森まで走って、青函高速フェリーで函館入り。一泊してそこから思い切り走って屈斜路湖近くの弟子屈町までいくことにした。
走行距離が予定よりも大幅に増えてしまった。自分の体力を過信している訳では決してなく、むしろそこが不安だった。
そうなるとバイクの整備も怠れない。W650は実にバランスのいいバイクだが、高速走行はあまり得意ではない。エンジンは余裕でまわるが、風よけのないネイキッドデザインなので風圧がすごいのだ。そこで疲れないためにも風よけをつけることにした。しかし、なんといってもカッコよさが売りのバイクだから(世界一かっこいい)、デザインを損なうようなものは付けたくない。さんざん考えた末、デイトナのクリアタイプを付けた。
エンジンオイルも評判のいいものを友人から聞き、それに入れ替えた。ブレーキ周りの整備もした。前後のサスペンションもいじりたかったが、これは予算がオーバーでできなかった。僕のW650は、動力系、サスペンションともノーマルのままだ。W650に関しては、スピードを求めるユーザーはあまりいないが、テイストの部分はみな好みのものにいじりたがる傾向が強い。とくに「音」に関わるマフラーは、みんな換えたがる。
僕も商売柄、音にはこだわりが強いが、僕には忘れられない経験があった。
大阪で学生だった頃、バイクで信号待ちをしていたとき、後ろから「とんでもなくいい音」をさせながらやって来たバイクに釘付けになったことがある。「バン、バン、バン、バン」と一発一発の破裂音が独立して聞こえる。それまで聞いたこともない、迫力のある「生き物みたいな」音だった。エンジン周りのアナクロなデザインも強烈な印象で、ヘルメットの中で「こ、これが、ダブワンかあ~!」とつぶやいた。そう。W650のオヤジ、カワサキが誇る名車W1SAであった。信号が青になると僕のハスラーを尻目に「バン、バン、バン、バン」と独特の破裂音をアッチェルランドさせながら見る見るうちに去っていってしまった。
今でもあのときの「音」が耳に残っている。
だから、マフラーは換えないのだ。ダブワン「みたいな」音じゃどうしてもウソになってしまう。各社、研究を重ねて、ダブワンに肉薄する音はいくつかあった。でもあの音そのものじゃない。本当にあの音が出るマフラーがあったら僕も換えたと思う。きっとマフラーだけでは再現できないだろう。いろんな要素が重なってあの音になっていたんだと思う。

荷物は、着替えとデジカメ、尺八、パックロッドとウェイダーを含む釣り具一式。
いよいよ出発という朝(というか深夜)。ライダーズジャケットを着てブーツを履いて愛車を記念撮影。緑馬に跨がったら、なんともいえない力が湧いてきた。
おしっ。緑馬、いくで~~!!

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