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 いよいよ実釣である。
流れ込みの先をよく見てみると、意外に近い浅瀬で既になんらかの魚がボイルしている。もうワクワク感を禁じ得ない。沖合に遠投する必要はなさそうなので、9フィートと11フィートを持ってきたロッドのうち9フィートの方を選択。この竿はこれまでたくさんの魚と出会わせてくれた一番のお気に入りで、一昨年は70cm級の雄のシロザケまで釣り上げている。
岸際で、バックスペースがとれないので流芯にフライを流し込み、ラインを延々送り込んで、ボイルしているずっと先まで送ってから、ラインをリトリーブしてフライを泳がせる。このくり返しで、3投目にググッと強いアタリがきた! やった!! しかしすぐに素直になってすんなり引っ張られてくる。
「あ〜、こりゃウグイだな」
ウグイって魚は、かかってもすぐに音を上げて「ア〜〜レ〜〜!」って感じでただ重いだけの物体みたいになってしまう。魚とのスリリングなやりとりが楽しめない上に、ランディング・ネットにいれるとネットが臭くなるし、手で触ったら手が臭くなる。同じ生き物なのに釣り師の間では随分と差別されていて気の毒なようだが、これじゃさもありなん。
僕はフライのフックをすべてバーブレス(針の返しをつぶしてある)にしているので、極力ウグイの体には触らずフライだけ持ってポチャッとリリース。ここでポイントまで連れてきてくれたご亭主は夕刻のピックアップタイムと熊よけスプレーの装備を確認して一旦引き上げていかれた。ここからおよそ5時間、絶好のポイントに僕ひとりだ。
ここに来るまでは、ひょっとしてボウズに終わるんじゃないか、とか心配も少しあったが、最大限の希望を目の当たりにして、もはや不安などけし飛んでいた。
「さあ!」っと意気込んで、釣っては見たものの、次もウグイだった。フライの色を変えたり、流れ込みのずっとサイドまでウェイディングして(水に立ちこんで)遠投してもっと沖を攻めてみたりしたが、またウグイ。だんだん自虐的なってきて
「このままウグイを5連発なんてね・・・」
と独り言をつぶやいたり・・・
だがそれはあまかった。 手を変え品を変えやってみたが、釣れるのはウグイのみ。ついにウグイ10連発を記録! オ〜〜イ、アメマスや〜〜い。頼むから来てくれ〜〜!
せっかく無理をしてここまで来て、ああ、夢のパラダイスはウグイの楽園だったか?
ウグイ天国なのかウグイ地獄なのかよくわからない顛末に、涙目を湛えた情けない薄ら笑顔(になっていただろう)でフライを流し、引っぱり続けた。
途中、気分を変えようと休憩したり、林の中を散索したり、流れ込みの上の方にいってランディング・ネットでワカサギを掬ってみたりしながら時は過ぎていった。
そして午後4時になったころ、また魚のアタリがあった。またどうせ・・・と思いきや、今度はパワーが違う! グイグイッと首を左右に大きく振る独特の感触! うかうかしてるとどんどんラインを引っぱり出されてしまう。こりゃ間違いない!アメマスだ! 大切な一匹目。ひょっとしたらこれきり会えなくなってしまうかもしれない。大事に大事に。心の躍り方が今までと全然違う。寄せた、と思っても格段の力でまた沖に走られる。このくり返しだ。そしてポイントを荒らさないように少し離れた岸辺までなんとか誘導して慎重にランディング。やった〜〜!!念願のアメマスだ〜!
アメマス1
記念写真です。ハイ、チーズ。ってな訳にはいかない。鱒たちだって必死なんだから。釣った魚の写真を撮るときはできるだけ魚体に負担をかけないように、できれば、片方のエラを水につけたまま撮りたい。しかし難しいなあ。写真は全くのヘボであるが、その上、魚が元気すぎてあばれるあばれる。記念すべき一匹目はこんなのしか撮れなかった。

いや〜来た甲斐があった。ウ〜様には悪いがあれは数に入れたくない。これでやっとボウズの憂いから解放された。ここからは快進撃で、時折ウグイも混じるもののアメマスの良型が全部で4匹釣れた。

アメMス2
メジャーを忘れるという失態を犯してしまい、正確なサイズは言えないがこのロッド(11フィート)はグリップの長さが45cm。しっぽがキレているが口の先も左に同じくらいずれているからまあ45cmだろう。3年前の僕が記録したアメマスの自己ベストタイである。口には僕の巻いたウーリーバガーが。

さていい釣りが続いたところで宿のご亭主が迎えにきてくれた。ここで何枚か写真を撮っていただいて(彼は写真のエキスパートである)帰路についた。

宿でお風呂に入って疲れを癒し、続いて旅の楽しみのひとつである夕食に。
鱒やの晩飯
湖のワカサギの天ぷらに南蛮漬け、焼き鰈、肉じゃが、アスパラに、鮭のるいべ。ビールは道内限定サッポロ・クラッシックラガー。どうよこれ? 魚もすばらしく美味しいが、肉じゃがやアスパラという普通のものがすんごく美味い。北海道っていいなあ。これにワカサギと野菜のかき揚げがくわわって、至福の時間を追加した。

ごちそうと深い睡眠で英気を養い、翌朝は別のポイントに送ってもらった。ここで絶好調の釣りを展開することになる。送ってくれたご亭主は近くの林でバードウォッチングかつその捜索。いろいろ話をうかがって、実に地道な捜索活動の積み重ねの上にガイド業が成り立っていることを知った。
ひとりになって、間もなく、この日の一匹目が釣れた。いきなりアメマスだったが、なんとこの日は、ウグイ0、アメマス10という快進撃! 昨日のウグイ祭りが信じられないくらいだ。しかも自己記録更新の53cm(ロッドを使った推測)を釣り上げた! この一匹はさすがによく引いた。途中、糸を切られやしないかとヒヤヒヤしたほどの強い引きで、ランディングしてみるとやっぱり大きかった。
AMEMASU4.jpg
相変わらずヘボな写真である。これじゃサイズもわからないし。

絶好調の釣りを続ける中、林の方へ用をたしにいって戻ると、流れ込みの対岸に珍客が現れた。
キタキツネ1
写真を何枚か撮ったが、おかまいなしで全く逃げようとしない。ちなみに僕の弁当が写っているがこれにもほとんど興味を示さなかった。しばらくして林の方へ去っていったが、気がつくと僕の側に来ていて、びっくり。
キタキツネ2
触ろうと思えば触れる距離まで来ている。キツネに触ってはいけないので、何もしなかったが、どうもワカサギが流れ込みの岸際に打ち上げられるのを待っているようで、僕には無関心だった。こんな距離で野生動物に無視されるとはなんとも不思議な感じであった。後で宿のご亭主と話してわかったが、このキタキツネ、ご亭主のブログに「かしこいおかあさん」として出ていたのとおそらく同じ個体だろう。林の中に巣穴があって何匹かの子を育てている。だから子ギツネたちのためにワカサギを持って帰らなきゃならん訳で、釣り師など眼中になかったのではないか。僕がいいポイントに立っていたので
「あの、どいていただけませんか。ワカサギ欲しいんですけど」
と言っていたのかもしれない。写真を見るとそんな感じがしてならない。

帰りの飛行機は、釧路空港から7時過ぎの便だ。ここを4時過ぎくらいに出れば間に合いそうだが、昨日のような4時からのゴールデンタイムに途中で切り上げて帰れるものだろうか。「あと少し。あと一投」なんて思っているうちにギリギリになって、いつもの悪いパターンに嵌ってしまう可能性大である。クルマの運転に不安のある僕は、潔く3時に切り上げることにした。釣りたい気持ちはマックスであるが、ここから先は次回からのお楽しみとしよう。
あめま
我ながらうれしそうな表情である。下手な僕にもいい思いをさせてくださったご亭主に感謝。


今回の釣行で心に残った事は、まあいろいろあるが、総括して言えば、自分のやりたいと思ったことをいくらかの困難を超えてでもやった、という満足感と、そしてもうひとつ。30代、まだフライフィッシングを始めて間もない頃、友人から敬愛する故西山徹氏の北海道の湖でのアメマス釣りのビデオを観せてもらって大いに感銘を受けたものだった。
「いつかは僕もあれをやるんだ。絶対に」
と心に誓った。ビデオの最後、夕暮れ前のマズメどき。湖水に立ちこんでアメマスをランディングする西山氏のシルエットが心に焼き付いて今も離れない。僕にとってずっと夢であり、憧れだったあの映像。宿のご亭主が撮ってくれた写真の中の一枚をご覧いただいてこの稿を終えたい。


夕暮れ






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