帯広競馬場を後にした僕と友人は、それぞれバイクと車に乗って北へ向かった。山道に入るまでは地元民である友人が先に走ってくれた。途中、有名なお菓子の会社の工場を見学したり、映画やドラマの撮影でよく使われるどこまでもまっすぐな並木道など帯広周辺の観光スポットを教えてもらいながら、夕刻に急き立てられつつ走った。いよいよ陽が弱くなり始めた頃、山に入る分岐点に差しかかった。右へ行けば然別湖(しかりべつこ)。左へ行けば目的地の温泉に至るはずだ。ここでクネクネ道に強いバイクの僕が先になり、山の中に入っていった。道はずっと谷川とともに小さな橋で右岸に行ったり左岸に行ったりしながら続く。ほどなく、橋の袂に夕暮れの食事探しに出てきたのか、キタキツネが現れた。5月の釣りでもそうだったが、近づいても警戒はするものの逃げようとしない。後ろの友人がデジカメでキツネを撮っているのをミラーで見ながら低速で道を登っていった。宿の方から、
「路面が濡れているとちょっと危険かもしれない」
と言われていたので、かなりビビっていたが走ってみるとさすがに Multistrada の名に恥じない軽やかなコーナーリングの愛車に助けられ、
「結構いけるじゃん、俺」
と面白くなり始めた。いかんいかん。こういうときに痛い目に遭うんだった。後ろの4輪の友人は十勝国際ラリーの実行委員長をやっていただけあって、運転はお手の物なので何も心配ないが、危ないのは当の僕なのだ。自重しつつ登っていくと、急に道が細くなり、ヘアピンカーブになってきた。しかもガードレールがまったくない。はみだしたら即、谷の下へアウト。
「うわあ! これ無理!」
とたんに怖くなってギアをついにローまで落として、最徐行。最後のコーナーはロー&半クラでヒイヒイいいながら宿の敷地内に這い上がった。しかしまあ、本当に山の奥である。ここを切開いたという先代の経営者は、こんなところに何を思って分け入って温泉を掘り当てたのか。誠に不思議である。敷地内の一番奥の高いところにその温泉はあった。
IMGP0191_20160203171647e11.jpg
ここが泉質のよさで知られる「かんの温泉」だ。山の急傾斜に建っているのがわかるであろうか。かつては山奥過ぎて鄙びの極地だったそうだが、今や建物内は快適なホテル並みの綺麗さだ。
明日の仕事が早く、お泊まりできない友人と早速にお湯を目指した。温泉内の写真を撮りたかったが、一人、二人ながら他のお客さんもいてカメラの持ち込みは諦めた。温泉好きの友人はいくつもある湯舟をはしごしながら、しきりに気持ちよがっている。僕は彼とは別のペースで、それぞれの泉質や効能の説明書きを読むのを楽しみつつ、ゆっくりゆっくり湯に漂った。最悪、彼とは湯に入りながら別れてもいい。なにせ明日の朝までここでなんの予定もなく過ごすのだ。ゆっくりゆっくり、チョ〜〜ゆ〜〜〜っく〜〜〜り・・・・・

 温まっては冷水で締め、また温まっては冷水で締め、と何回もくり返し、いい加減体がとろけてきた頃合いで、お湯から上がったが、友人は僕より後から上がってきた。こいつ、ほんとに温泉好きだなあ。設置してある冷たい天然水をグビグビ飲む彼と再会を約して別れた。僕は一杯目のビールをより美味しく飲むために水はがまんした。部屋はシングルを頼んだのであるが宿の都合でツインの部屋になった。それも普通のツインより広い。さてと。体は冷たいビールを要求しているが、同時に疲れがどっときていてちょっと眠りたい気もする。食堂で夕食にするか、ちょっと寝てからにするか、迷ったが結局23分という中途半端な時間をベッドの上でウトウトする、というなんともどっちつかずな行動の後、食堂に向かった。
大好きな道内限定サッポロラガーを一気に2本飲んで、乾きを癒したら、予想よりもゴージャスな夕食が出てきた。
IMG_0227.jpg
今は法人経営になり、秘湯というより快適な温泉旅館としての機能をもつようになったようだ。僕はどっちでもいい。元々テントを積み込んでの野宿ライダーだったから質素かつワイルドなのもいいし、和食好き美味いもん好きの酒飲みでもある。なかなか美味しい食事を楽しみつつ3本目のビールを空けたら、宿の方が
「是非、地元のお酒を試してください」
と勧めるのでお願いしたらこういうのが出された。
IMG_0228.jpg
純米吟醸であるが、なんとも北海道らしい味だ。どこか武骨というか雄大というか、おおらかなところがあってドーンとしている。他の地域の吟醸酒とは少し違うが、これはこれでいいんじゃないだろうか。
勧められるままに杯を重ね、気が付いたらかなりの酒量になっていた。疲れもあってややクラクラしてきたところで、部屋にもどって寝ることにした。

気が付いたら夜中の1時だった。4〜5時間は眠ったと思うが、なぜかそこから目が冴えて眠れなくなった。テレビでもみようかと思ったが、どういう訳か全くつかない。電源は来ているようだがスイッチを入れても反応がない。元々テレビなしの生活を11年も続けているし、今どうしても観たいというわけでもない。宿の人にいうのも面倒なのでテレビは止めにしてi-padでネットを観たが、それも数分でイヤになった。なにもすることがない。それを楽しむつもりだったが、ここに来てなぜか虚無感のようなものに襲われ始めた。元来、僕は孤独には耐える方だと思うが、昼間、友人と楽しく過ごしたせいか、旅の疲れからなのか・・・
この虚しい感じ。これが実は僕を旅から遠ざけた一因だった。子供の頃から幾度も襲われてきたどうしようもないこの虚しさ。誰に話してもまるでわかってもらえないので人に語ることもしなくなったが、ずっと僕から去っていくことなく、いつも隙をうかがってはまとわりつく、影のような存在。
ほどなく、虚しさが襲ってきたきっかけがわかった。温泉に長く入り過ぎたのだ。人に言っても理解してもらえないが、僕は昔から長時間水に浸かっているとこうなってしまう。それはお湯でもプールでも海でもそうだった。海やプールでいっぱい遊んで楽しそうで幸せそうな周囲の人たちがうらやましかった。でも今は僕も大人になったんだ。子供の頃のように虚しさに負けたりしないぞ、と思いたいが、今回のは久しぶりのせいかちょっと強烈な気がした。
♩そんな時は なにもせずに 眠る 眠る♩
そうしたいのはやまやまだが、全然眠れない。しようがない。虚しさと正面から向き合ってやるか。
いたずらに広い部屋の中で、一人ポツンと天井を見ながら、つらつらとこの旅で感じたことを考えた。そもそも旅をしようと思ったのはなぜなんだ。何かを克服したかったんじゃなかったか。だったら虚しさも望むところじゃないか。結局、自分はかわいそうな人なんだ、なのに頑張ってるんだ、と人に聞いて欲しかったんじゃないのか。だからいつも旅のことを文章にしてネットに出してるんじゃないのか。
虚しさよ。お前は誰なんだ。俺自身なのか。俺の影なのか。だったら影を作る光は何なんだ。
ここで、ハッと気が付いた。光。そうかあの光が関係あるのか。とても影なんか入る余地がないほどのあふれんばかりのあの光。
何時間経っていたのかよくわからないが気持ちが安らかになった。虚しい感じはいつか消えていつもと同じになっていた。
外に出てみた。月が出ていた。湯気をさかんに立てている源泉のすぐ脇まで月が下がってきていた。
IMG_0235.jpg

さあ、もう寝よう。しっかり寝ないと明日またたくさん走らなきゃならない。
部屋に帰ってから朝食の時間まで爆睡したようだった。




スポンサーサイト
Secret

TrackBackURL
→http://goinghome153.blog76.fc2.com/tb.php/226-9287fa50